東電、多核種除去設備の状況把握に手間取る
2013年4月4日未明、東電から「多核種除去設備」(ALPS=アルプス)が停止したという連絡メールが送信されてきました。
ALPSは、原子炉/タービン建屋などの地下に溜まり続ける高濃度の放射性汚染水からセシウムを除去した後に出てくる廃水から、セシウム以外のさまざまな放射性物質を除去するための装置。3月30日から4か月間の予定で、実際の廃水を使用した試験運転を開始していました。
この装置が停止したが、すぐに再起動したというメールが、4日の午前8時25分にきました。内容は以下のようなものでした。
○ 平成25年4月4日5時23分頃、汚染水処理設備にて処理していた廃液を
用いた試験(ホット試験)を開始していた多核種除去設備(ALPS)が、
誤操作により停止しました。
○ 停止後の現場確認を行いましたが、異常がないことから同日6時33分
に再起動を行いました。
○ 再起動後の運転状態に異常はありません。
このメールと、おそらくは東電への確認を済ませた後、各社は以下の記事を配信しています。
http://www.47news.jp/feature/kyodo/news05/2013/04/post-7505.html
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20130404-OYT1T00496.htm
福島第一の汚染水処理、新装置が試験運転中に停止(読売オンライン)
どちらの記事も、停止してから1時間10分後に再起動したという、東電の発表に沿った内容でした。
ところが東電は午後2時10分に訂正メールを発信。メールには、再起動はしておらず、設備内に残っている水(おそらく汚染水)を抜き取るために設備の一部を起動したと記載していました。
○ 本日お知らせいたしました福島第一原子力発電所における多核種除去設備の
一時停止に関して、誤りがありましたので、以下の通りお詫びして訂正させ
ていただきます。
(正)同日午前6時33分に、系統の残水処理を開始しました。
(誤)同日6時33分に再起動を行いました。
(正)残水処理開始後の運転状態に異常はありません。
(誤)再起動後の運転状態に異常はありません。
【お知らせ済み(訂正済み)】
○ 平成25年4月4日午前5時23分頃、汚染水処理設備にて処理していた廃液を
用いた試験(ホット試験)を開始していた多核種除去設備(ALPS)が、
誤操作により停止しました。
○ 停止後の現場確認を行いましたが、異常がないことから同日午前6時33分に、
系統の残水処理を開始しました。
○ 残水処理開始後の運転状態に異常はありません。
その後東電は、午後4時20分、午後8時16分にそれぞれ続報を送信。結局、ALPSは再起動しておらず、設備内に残った水を抜き取る作業だけを実施したに留まりました。再起動がいつかは、明確ではありません。
(東電続報メール)
○ 本日(4月4日)お知らせいたしました福島第一原子力発電所における多核
種除去設備の一時停止に関して、続報がありましたので、お知らせいたしま
す。
○ 多核種除去設備は誤操作により停止したことから、系統の残水処理を行って
おりますが、本日午後6時54分に終了しました。
○ 現在、再発防止対策の検討を行っており、対策を行った上で、明日以降準備
が整い次第、運転を再開する予定です。
多核種除去設備に限らず、水処理設備というのは複雑な設備構成になっています。このため初期トラブルはつきもので、初日からうまく動くとは思えません。だから停止そのものは驚くことではありませんが、問題は、停止→再起動の状況を長時間、誤認していたことです。
東電が設備の再起動を確認したのは午前6時33分です。メールの送信は午前8時25分なので、確認から2時間経っています。その後の訂正メールが午後1時26分でした。つまり東電は、第一報から訂正まで約5時間、現場の確認から訂正メールまで約7時間もかかったことになります。またこの間、原子力規制庁も東電からの連絡をもとに、同じ内容の誤連絡を行い、訂正しています。
いくら新しい設備だからといえ、あまりにも時間がかかりすぎていると思うのは、気のせいでしょうか。
ALPSで処理した後の廃水では、除去ができないトリチウムが主な核種になるので、東電も原子力規制委員会(原子力規制庁)も、中長期ロードマップを管理する資源エネルギー庁も、敷地内のリスクを減らすためには有効であると説明しています。一方で、ALPSで除去した放射性物質は、HICと呼ばれる容器に貯められて、長期間保管されることになります。HICに貯蔵される放射性物質の量は多く、放射線量は相当に高くなります。そのため規制委は、APLSの試験開始に非常に慎重になっていました。
もちろん今回の停止が直接、環境の汚染に直結するわけではありません。けれども、設備状況の確認に6時間以上もかかるのでは、東電や規制委(規制庁)が設備そのものをどこまで把握しているのだろうかと、疑わざるを得ません。このような状況で、緊急時に正しい対応、素早い情報公開ができるのでしょうか。
東電には、確実なだけでなく、迅速な事態の公表や状況把握が望まれるところです。東電にそれができるかどうか、私たちは今のところ、見守るしかないのが現状ですが。。。